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「ヒューマノイド」と「レアアースの罠」

ヒト型ロボットに世界中が注目しています。「ヒューマノイド」市場が急成長しているからです。そこに「レアアースの罠」が待ち受けています。

膨張する市場規模

 今年8月、中国・北京で「世界ヒト型ロボット運動会」が開かれました。
 世界16ヵ国から280チームが参加し、500台を越えるヒト型ロボットが、陸上やサッカーやボクシングなどの競技を展開しました。
 この様子は、日本でもテレビニュースで報じられ、最先端技術を駆使したロボットのユーモラスな動きに笑いを誘われました。
 でも、現実のヒューマノイド市場を取り巻く状況はユーモラスではありません。
 ヒト型ロボットが実用化の段階に入り、需要の急拡大で市場が熱くなってきているのです。世界 のヒューマノイドの市場規模は、2023年24億3000万ドル(約3800億円)、2024年32億8000万ドル(約5000億円)でしたが、2032年にはそれが660億ドル(約10兆円)まではね上がるとの予測もあるほどです。
 それだけに、米中欧日などの企業が政府も巻き込んで激しい競争が始まっているのです。
 ロボットと言えば、日本の技術が世界に先行していたイメージの時期がありました。実際そうだったのですが、日本はあらかじめプログラムされた動きで実用的な形状をした産業用ロボットに特化していました。
 その価値観からみれば、ヒト型はお遊びに過ぎなかったのです。
 ところが AI(人工知能)の技術が進み、状況の変化に応じて自分で判断するロボットを作ることが可能になりました。
 すると、形状もヒト型のほうが合理的と考えられ、ヒューマノイドのブームが起きたのです。
 こんな予測もあります。
 ヒューマノイドの世界出荷台数は、2025年は1万8000 台と見込まれていますが、2030年に100万台、2050年に10億台、2060年には30億台にまで増えると。
 そのころの世界人口は100億人ぐらいでしょうから、ヒト3人に対してヒューマノイドが1台の時代になるというのです。
 先進国で起きている人手不足も、ヒューマノイドの需要を作りだした要因の一つであることは間違いありません。

ヒューマノイド 市場規模2022-2032(10億米ドル)
Source:www.gminsights.com

ここでも米中対立

 急拡大するヒューマノイド市場を引っ張っているのは、誰か。
 世界市場の42%(2023年)を占めたのは、アジア太平洋地域でした。
 元気なのは中国で、日本は現在のヒューマノイドでは一歩後れをとっています。
 2024年末に、ヒューマノイド関連企業は世界に220社余りありましたが、そのうち半数が中国企業。
 同年に公開されたヒューマノイドは51点で、その6割超が中国製だったそうです。
 中国勢が元気なのは、国ぐるみだからでしょう。中国政府は2025年を目標年次にした「中国製造2025」と呼ぶハイテク振興政策を続けています。
 この「中国製造」によって、EV( 電気自動車)やドローンなどで成功し、次の重点目標はヒューマノイドとされています。
 これに対抗しているのは、やはり米国で、企業はテスラ。「オプティマス」というヒューマノイドを、今年から自社で稼働させ、来年から外販を始めると言います。
 テスラ創業者のイーロン・マスク氏に言わせれば「世界首位はテスラで間違いないが、2位から10位までは中国勢が占めるようになるかもしれない」そうです。
 なんだかEV市場に似ていますね。

実質シェアは85%超

 ただ、中国以外のヒューマノイド企業にとっては、深刻なネックがあります。
 レアアースです。
 ロボットに人間のような動きをさせることができるようになったのは、関節を複雑で精密に動かせるようになったから。
 それを可能にしたのが、関節に取り付けた小型で強力で高性能なモーター群です。これを造るには、ネオジムをはじめとしたレアアースが不可欠です。
 レアアースのサプライチェーン(供給網)は、ほとんど中国に握られていることはよく知られています。
 2023年時点で、中国のレアアース採掘量は世界の約69%、埋蔵量は約37%を占めるといわれます。
 しかし、この数字は必ずしも現実を表していません。
 危機管理の専門家は、鉱石を採掘してから製品にするまでの工程を「上・中・下流」に分け、それぞれの占有率を見る必要があると言います。
 69%というのは、「上流」(採掘)だけの数字で、元素ごとに分離・精製する「中流」は90%以上、金属・合金化し磁石を製造する「下流」も90%以上、そして「最終製品」(磁石製造)は約85%です。
 米国は、自国や豪州でレアアースの採掘を行っても、精製のためにそのほとんどを中国に送り、そこで最終製品にしたものを再び輸入するしかない、というのが現実なのです。
 だから、米中貿易戦争でいくら高関税をかけても、中国側のレアアース輸出規制に勝てないのです。